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    今日から「夫」と言われても~NDY企画 任侠事件簿~
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    ザ・藤川家族カンパニー3 漂流のうた

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キューピー3分クッキング

嗚呼! 涙と笑いのカエル祭り

 エルレインとオルフェリアは追い詰められていた。
「いやですっっ、絶っっ対にイヤです!!」
「そんな無体を強いるなら、わたし死にます! 舌を噛みます!」
 エリアルダ王宮の一室で、二人は互いをかばい合いながら口々にわめく。
 ニヤニヤしながら二人に迫っているのは、エリアルダの〈国守り〉であるゲルダだ。
「ゼンゼン痛くないし、怖くもないのよ?」
「魔法をかけられた時にどう感じるかはわかってます。そういう理由で嫌がっているんじゃありません」
 エルレインが言うと、ゲルダは大げさに驚く真似をしてみせた。

「あら。それじゃ、何が嫌なの?」
「その提案が、に決まってるじゃありませんか。いったいどんなわけで、わたしとリオがカエルにならなければいけないんです?」
 親友を庇う気持ちも手伝い、エルレインは切り口上になった。自分だけだって冗談ではないが、大のカエル嫌いであるオルフェリアにまで強要するのは酷すぎる。
「それは、王太子殿下が退屈なさったからじゃないかしら」
 ゲルダはこともなげに言い、傍らの机を示した。
 軍の執務室で地図を広げて使うような大机の上には、小さな遊園地が作られていた。回転木馬、傘のように広がって回るブランコ。鏡で作られた迷路、トランポリン。
 どれもこれも、カエルサイズだった。
 そしてすでに、数匹のカエルが歓声を上げて遊んでいる……。
「エルレイン、オルフェリア。早く来ぬか」
「ははうえー。これ、すっごく楽しいですよ!」
「おかーしゃま、まだ?」
 次々に上がる声に、オルフェリアがぐったりしてエルレインの肩にもたれる。
「悪夢だ、悪夢だよレーン……」
 遊具を楽しんでいるのは、王太子一家だった。自分の夫と子どもたちが緑色になってはしゃいでいるなんて、オルフェリアにとってはまるで地獄絵図である。
 エルレインは友に同情した。オルフェリアの息子も娘もいい子だが、二人ともアレクセルの「おばかさん気質」を受け継いでしまっている。

「楽しそうね、家族団欒。きっと、怖いのは一瞬だと思うわよ?」
 ゲルダがけしかけるようなことを言った。のほほんとした魔女に、エルレインはぼそりと毒を吐く。
「ご自分は免れられるからって、好きなことをおっしゃいますわね」
「仕方ないわ、わたしは術をかける側ですもの。筆頭位が抜けた今、ほかの誰に、大勢をカエルにするような魔法が使えて?」
 それが適うのは、たしかにゲルダだけだ。「だからと、何も弟のトンチキな頼みなど聞かなくっていいと思いますけれど」
「ほんと、そうよねぇ」
「さらっと同意するの、やめていただけますゲルダ? 殊勝ぶって協力するのは、あなたも退屈なのですよね?」
「あらぁ、わかる?」
 わからいでか、とエルレインは思った。ゲルダがにやついているのが、何よりの証拠だ。
「ほら、エルレインも。さっきから旦那さまがお待ちかねよ?」
 ゲルダに言われて、エルレインは遊園地の片隅にげんなりした目を向けた。
 しつらえられたベンチで、凶悪な面構えの黒ガエルがうちひしがれている。
 エルレインの旦那さまであるゼルイークだった。運命を賭けた長き眠りから醒めて、はや三年。
 まさか今頃になって、こんな試練に見舞われるとは思っていなかっただろう。

「あなた、犬になったことならあるでしょうエルレイン。今度は緑色になるだけで、大差ないわ」
「そういう問題じゃありません」
 エルレインは憮然とした。だいたい、彼らはなにか忘れてやしないだろうか。
 エルレインは、触れた男性をカエルに変えてしまう呪いをかけられていた。そのことで、ずいぶん悲しい思いもしてきたし、彼女のせいで命を落とした者もいる。
 どれほど時が経っても、心の傷も申し訳なさも消えない。普段は心の奥底に眠っていても、ふとした拍子に蘇るのだ。
「もう、自分を責めなくてもいいと思うわよエルレイン」
 ゲルダがかすかな微笑みを浮かべて首を振る。
「あなたは充分苦しんだのだし、これからもそうなのでしょうけれど、楽しみは楽しみよ。わけて考えても、誰も責めたりしないわ」
「そうかもしれませんけれど。これを楽しいとは思えません」
 緑色になって、跳んだり跳ねたりしたい願望はエルレインにはない。
 オルフェリアにもない。
 と、ふいに魔法の環が動く気配がして、床に青白い文字と紋様が浮かんだ。
 光がほとばしり、風が吹き抜け、一組の男女が現れる。

「姫さまーっ」
 すらりとした、金髪の若い女性が駆け寄ってエルレインに抱きつく。
 すっかり大人になったジーニーだ。今では彼女は、故郷オーデットの王太子妃である。
「本日はお招きありがとうございます。わたし、もう嬉しくて嬉しくて、眠れませんでした!」
 ジーニーは呆気にとられるエルレインをよそに、きゃっきゃと笑った。夫である王太子シラルは、そんな妻を微笑ましげに見つめている。
「シラルさま……。お忙しいのじゃありませんの?」
 エルレインは義弟に非難の眼差し向けた。ジーニーは〈カエルの好きな王妃さま〉だ。こんな催しがあれば、一も二もなく飛んでくるに決まっているが、諫めてくれてもよかっただろうに。
「やあ姫、ごきげんよう。たしかに暇ではないけれどさ、愛しい奥さんの希望だからね」
 できるだけ叶えてあげたいじゃないか、ともっともらしい口ぶりだが、結局はシラルもカエル化が好きなのだ。
 緑色になると、誰もが釘付けになるようなかわいらしい姿に変わるからかもしれない。
「さあ、ゲルダさま! お願いしますっ」
 ジーニーは〈国守り〉の魔女に向かって、両手を広げてみせた。
 魔法の環がジーニーを包み込み、緑色へと変化させる。
 妻の落下をシラルが救った。いとおしそうに微笑みかけて、遊園地の中へ下ろしてやる。
 エリアルダ王太子一家と合流したジーニーは、大喜びで遊び始める。
「うう、レーン」
 さらに増えたカエルに、オルフェリアが涙目になった。エルレインはよしよし、と子どもにするように友の背を撫でてなだめる。
「おーい、母上ー」
「おかーしゃまっ」
 子どもたちがオルフェリアを呼ぶ。
 エルレインはよほど、二人を叱りつけてやろうかと思った。母親にだって苦手はある。一緒に楽しめないことを、彼らは理解すべきだ。
「エヴィーダ妃殿下なら、いさぎよく飛び込むでしょうね」
「なんですって?」
 ゲルダの言葉をオルフェリアが聞きとがめる。嫁いで十年余。それなりに上手くやってきたエヴィーダとオルフェリアだが、最近はなにかと、オルフェリアが姑を意識している。
 賢妃フラニエルの再来と呼ばれる、邪悪(褒め言葉)な王妃、と言われるエヴィーダだ。
 王太子妃として、オルフェリアは彼女を見習いつつも超えてゆこうとしているのかもしれない。

「わかりました。ゲルダさま、わたし、行きます」
「リオ?」
 エルレインはぎょっとした。オルフェリアの気高さは承知だが、ここでそれを炸裂させずにもいいのではないか。
「義母上がなさっただろうことでしたら、わたしもやります。いえ、やれます!」
「よく言ったわ、妃殿下。さ、行ってらっしゃい」
 決意したオルフェリアを、ゲルダは魔法で送りだす。
 邪悪だ、とエルレインは思った。そそのかしてカエル化を同意させるなんて、当代の〈国守り〉は、なんてクロいのだろう。
「ひーめ」
 シラルがエルレインの腕をがっちりと掴んだ。あとは彼女だけだ、と言いたいらしい。
「シラルさま、ですけれどわたし」
 エルレインは怯んだ。
 そう、彼女は怖いのだ。緑色は未だ、彼女にとっては呪いなのだから。
「荒療治だよ、姫」
 シラルが言った。
「死者を悼むのとこれは別だ。いつまでも怯えるのじゃなく、乗り越えないと」
 そうなのだろうか。
「一見、正論に聞こえますけれど、うさんくさく思うのは、わたしのへそが曲がっているからですか?」
「ほらほら、そういう小難しいことは考えない」
「そうだよ、姫」
 二人に丸め込まれた気がしたが、エルレインは反論できなかった。
 オルフェリアですら、緑色の自分になじもうとしている。
 自分が緑色になれば、なにかが変わるだろうか。彼らが見た世界を知ることに、意味はあるだろうか。
 わからない。というか、違う気がする。みな、たんに遊びたくて言っているだけというのもある。
 それでも、なぜか気持ちが動いた。もしも飛び込んだら――。
 大きく息を吸い、エルレインはうなずいた。
 行ってみよう。これがまた一つの区切りになるかもしれない。
 それを――願って。
「じゃ、二人とも行くわよ」
 ゲルダの魔法が、エルレインとシラルの姿を変える。彼らを、仲間たちが迎えた。
 エルレインは、彼らに混ざるのではなくゼルイークのもとへ向かう。

「とうとうあなたも、送り込まれましたね」
  ゼルイークは苦笑していた。いつものように髪に触れようにも触れられないので、鼻面をそっと寄せる。
「無理せずにもよかったんですよ?」
「わかってます。でも、知ってみたかったんです。馬鹿みたいかもしれませんけれど」
「馬鹿だとは思いません。そういうものでしょう。人は変わってゆく。そして、変わりたいと願いもする。前に進もうとするのは、悪いことではありません。すべてをなかったことにしようと、耳を塞いで逃げるのでなければ。あなたは違うでしょう?」
「違います」
「ならば、楽しめばいいんです。この状況を、楽しめたらですが」
 ゼルイーク自身も、カエル化は複雑なようだった。彼は魔法を棄てた。なのにこんなふうに、魔法を使った遊びにつきあっている。
「――これものちに振り返れば、いい思い出になるのでしょうね。あといくらもしないうちに、こういう時代ではなくなる」
 ゼルイークのいない十年で、魔法の流れは劇的に変わった。そしていまも、変わり続けている。
 一つの伝統が途絶えようとしているのを、誰もが感じずにはいられなかった。エリアルダの政治も、転換期を迎えようとしている――。
 エルレインは訊いた。
「これは、しばしの休息でしょうか」
「そうとも言えます。――たんに、殿下のしょうもない思いつきでもありますが」
「そこは否定しません」
「いかにも、あなたらしい答えだ」
 皮肉屋は健在。そういったところだろう。
「しかし。アラサーになって、遊園地ではしゃげとは、まあ」
 ふとゼルイークがぼやいた。ぱっと童心に帰れるほど、心の鎧は脱げていないらしい。
「この姿なら大丈夫――かもしれませんわよ?」
 エルレインは笑った。わたしは緑色。そう思えば、はめを外せるのではないだろうか。
「そう簡単にいくなら、わたしは酒を飲んだだけで裸踊りができるでしょうよ」
 ゼルイークの理性は、そう簡単には飛ばないようだ。
「ですがエルレイン。わたしにもデートくらいはできます」
「嬉しいです、ゼルイークさま。そういうの、久しぶりですもの」
 エルレインは夫に寄り添った。あれから三年。ひとときも離れたことはないが、特別なお出かけというのも、そうはしていない。
 ずっと一緒にいても、デートは心がときめく。それだけでも、この姿になって悪くはなかったかもしれない。
 そう思ったエルレインは、見事に足元をすくわれる。
「しかし、エルレイン。緑色だと、あなたの大平原がまったく気にならない」
 大平原。それは豊かだと男性の注目を集められる、とある部分だ。この後に及んで、というかこれほど経ってもなお、それを冗談にするなんて。
 エルレインは、緑色の特性を活かして大きく跳躍した。
 夫の後頭部に、蹴りをお見舞いしてやる。
「言葉にはお気をつけあそばせっ、旦那さま」

   
  

   
  

 
 
 

本日も晴天なり?

2017年9月
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    振り返れば先生がいる/振り返れば先生がいる2ndシーズン
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    人は影のみた夢①~④
  • 華(はな)は藤夜叉シリーズ(全2冊)
    華は藤夜叉/PURE GOLD
  • アル-ナグクルーンの刻印シリーズ(5冊)
    クィンティーザの隻翼(かたはね)/エズモーゼの左手/星は踊る/ 月を狩る森/砕けた紋章
  • この雪に願えるならば
  • 雨の音洲(あめのおとしま)秘聞シリーズ(全3冊)
    闇燈籠(やみどうろう)心中 桜の章、吹雪の章/ 朧月鬼夜(おぼろづきよ)抄
  • 月虹(げっこう)のラーナ
  • 羽硝子(ハネガラス)の森
  • 睡蓮の記憶
  • カウス=ルー大陸史・空の牙シリーズ(全17冊)
    誘いの刻(とき)/太陽のエセラ/ 祭りの灯(ひ)/嵐が姫《幽幻(ゆうげん)篇》《風雷篇》/忘我の焔/今日命(きょうめい)の螺旋/かさねの鉢植/女神の輪郭(前編・後編)/影朧(かげろう)の庭/聖女の卵/夢眩(むげん)の鏡/華烙(からく)の群れ/蘭の血脈《天青(てんじょう)篇》《地猩(ちじょう)篇》《紫浄(しじょう)篇》

ビーズログ文庫既刊

  • 少年ユヅルの優雅で怠惰な王国
  • 神抱く凪の姫シリーズ(全3冊)
    キレ神様、お目覚めにございます/耐えてください、キレ神様/誓いの刻です、キレ神様
  • 姫さま、恋愛禁止です!シリーズ(全2冊)
    花婿はお馬の王子/旦那さまと呪いのウサ耳
  • 女神の娘の恋歌(こいうた)シリーズ(全3冊)
    暁は伯爵、黄昏は魔王/光の乙女、闇の聖女/一瞬の光、永遠の輝き

幻狼ファンタジアノベルス既刊

  • 半魂香―まどろみの巫女と〈守護者〉―〈上〉〈下〉