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キューピー3分クッキング

薔薇の純情 ある日の午後、ティールームで

 けだるい午後のひととき。
 三段重ねのトレーが、初夏の穏やかな陽射しに銀色の柔らかな輝きを放っている。
 ティールームの窓から眺められる庭は薔薇の盛りだった。赤、黄、白、薄紅――。大輪からつる薔薇までが、顔を輝かせるように咲き誇っている。

 ティールームの客は若い女性ばかりだ。流行のドレスに身を包んだ淑女たちが、ひそやかに笑いさざめいている。
 給仕がことりと、トレーから取った皿をジェーンの前においた。
 飾り縁のついた皿には、あわい緑色の美しい果実のタルトが乗っている。
 小花柄のカップに注がれるお茶は見事な紅色だ。
 ジェーンは、物思いに耽りながら眺めていた革装の小画をそっと閉じた。
 ゆったりくつろいだ気持ちでカップを手にし、すばらしいお茶を味わおうとした――途端。

「ぐふっ」
 雰囲気にそぐわない笑い声が、向かいの席に座る相棒の口からもれて、ジェーンはお茶にむせそうになった。
 気分を台無しにされたジェーンは、ふわふわの茶色の髪に鳶色の瞳の少女をにらむ。
「アニー」
「だってえ」
 非難されたアニーは、読みさしの旅行案内を振ってみせた。
「これから行くのって、『美女の湯』よ、『美女の湯』! 『お湯につかればたちまちアナタも美女』なんて書いてあったら、興奮せずにはいられないじゃない」
「いや、効能うさんくさすぎて引くと思う」
 ぼそっと言うと、期待に水を差されたアニーが唇をとがらせた。
「そりゃ、あんたはいいわよね。さらっさらの銀髪にすみれ色の瞳。人形みたいな顔で、べつに温泉にあやからなくたって美人だもの」
 そういうアニーこそ、小柄で華奢。かわいらしくて、ゴージャスにフリルのついたドレスがとことん似合うタイプである。
「アニーだって、いまのままで充分かわいいってば」
「かわいい?」
 はん、とアニーが鼻を鳴らした。
「そんな曖昧な言葉、ちっとも役に立ちゃしないわよ。世の中でね、得なのは高値の花なの。みんなが振り返るような美貌を持ってこそ、理想の王子さまが射止められるんじゃない」
「そうかなぁ。王子さまだって、十人いれば好みも十通りじゃないの?」
「だからこそ、まず基本の女子力を上げるんだってば。わかんない? 一に美人、二に美人、三、四が好みで、五が愛嬌」

「そうかなぁ」
 わかったようなわからないような理屈を並べられたジェーンが首をひねると、アニーはやれやれというようにかぶりを振った。
「これだから、トンデモ趣味の女は」
「なっなによう」
 相棒の呆れる眼差しのから庇うように、ジェーンは革装の小画を胸に抱いた。
 いつも持ち歩いているそれは、ジェーンの尊敬しまくっている男性の肖像画だった。
 百年前、滅亡する国に殉じた、国王直属の十二人の騎士たち――。
(ルトヴィーンの〈聖十二騎士〉……)
「とっくの昔に墓に入っちゃったオッサンなんて、なんの役にも立たないのよジェーン?」
「だから、騎士さまはオッサンじゃないったら。みなさまお若くて、一番年上でいらした団長さまだって」
「はいはい、三十歳だったっていうんでしょ。充分オッサンよ。齢は、あんたのほぼ二倍じゃない」
 ジェーンは十六歳なので、たしかにそうなのだが、でも絶対オッサンじゃない! とジェーンは思う。
「……問題のあるひとにばかり恋をして、爆死し続けるアニーよりマシだもん」
 ジェーンは痛いところを突いて反撃した。
 アニーは惚れっぽく、男運が悪い。毎回、大ハズレのダメ男を引き当てるのは、もはや特技だろう。
 さらに言えば、ジェーンには好きな人もいる。ちゃんと生きている、同世代の男性で、腕の立つ仕事仲間である。
 断じてダメ男などではなく、むしろ優秀という評価を得ている人物だ。
 急所を突かれたアニーがすさまじい目でにらみつけた。
「だからキレイになって、幸せを掴みたいんでしょうが」
「うう……そうだね……ごめん」
 もっともなお言葉だ。
「ええと。効果あるといいよね、美女の湯」
 そう言わないと収まりがつかず、ジェーンは嘘八百を並べてみた。
 本心を言えば、休暇で温泉保養を選んだ相棒に仕方なくついてきたのだが――。
 ともかくアニーは機嫌を直したようだった。「そうでしょ」というようにうなずいて、ふたたび旅行案内をめくり始める。
 内心肩をすくめたジェーンも、またカップに手を伸ばした、そのとき。

「お客様の中に、ジェーンさまとアニーさまはおいでですか」
 給仕係の呼びかけに、ジェーンたちは顔を見合わせた。
 胸騒ぎを覚えつつも、自分たちだと手を上げる。
 すると、給仕は白い衣装の男性を連れて歩いてきた。
 きらびやかな刺繍に飾られた白い――聖衣は教会の神父だ。
「げ」
 優雅なティールームにふさわしからぬ声が、二人の口から同時に漏れる。
「ちょうさいあくに」、「嫌な予感」と割り台詞でつぶやく。
「教皇庁特務課所属のヴァンパイア・ハンター、ジェーンとアニーですね」
 歩み寄った短髪の神父が、彼女たちのドレスをためつすがめつしながら訊いた。
「はい」
「そうです、けど」
 警戒して、つい返事をする声が固くなる。
 神父は、そんな彼女たちにおかまいなしに封書を手渡した。
「任務です」
「ドルエイク伯領に向かい、伯爵の妹嬢の警護にあたること――ってちょっとぉ」
 封書をすばやく開け、目を通したアニーが抗議の声を上げた。
「あの。わたしたち、これから休暇なんですけれど。だいたい、警護は専門外で」
 ジェーンも言ってみた。
 たしかにドルエイク伯領は目と鼻の先だった。が、二人がここにいるのは、近在の保養地を目指しているからだ。
 それを、狙い澄ましたように任務だなんてひどすぎる。
「っていうか、上層部はわたしたちに休暇返上で働けって?」
 アニーが噛みつくように言ったが、神父はきまじめに返した。
「ではないでしょうか。優秀なかたを、と伯爵がのぞまれたようで、それに対して、お二方が選ばれたので」
 絶対違う、とジェーンは思った。
 選ばれたのは、二人が近くを通過するのを知っていたからだ。報奨金を賭けてもいい。
「あのね。いくらハンターが貴重だってね――もういい」
 こんこんと説こうとしたアニーが途中で諦めた。
 この神父は、連絡を受けた教会からの使い走りだ。なにを言ったところで、上からの指令は絶対である。

「いいわよ、行けばいいんでしょ。ちゃっちゃと片付けるわよジェーン」
「あ、うん」
 席を立ち、ティールームを後にする相棒をジェーンは追った。
 給仕の慌てた声が背中に届く。
「あの、お嬢さまがた。お代のほうは」
「そこの白服が払うわよ」
「わ、わたしですか? わたしは世俗の貨幣は――」
「お布施箱からとってらっしゃい」
 アニーが神父にぴしゃりと言った。
「ですが――」
「迷惑料よ」
 むちゃくちゃな迷惑料もあったものだが、神父は逆らわなかった。
 彼女たちには言っても無駄だ、という前情報があったのか、はたまた素直に払うべきだと思ったからなのか。
 ティールームを出ると、そよ風が二人のドレスの裾を乱した。
 彼女たちのドレスは、人目を惹く膝丈だ。そして、フリルで飾り立てた黒い服。
 それがヴァンパイア・ハンターの正装だった。
 古来より、ヒトを糧として生きてきたヴァンパイア。
 教皇庁所属のハンターたちは、教会を通じて持ち込まれたヴァンパイアがらみの事件を解決することである。
 ジェーンとアニーは、若いながら第一線で活躍するハンターコンビだ。得意なのは戦闘で、警護ではないはずなのだが。
 指令が来てしまったものは、仕方がない。
「アニー。貸し馬車、仕立てないと」
「うん、そうね」
 通りを渡りながら、二人は手をつないだ。
急ぎ足から駆け足になると、影が躍るようについてゆく。
「ジェーン、温泉が待ってるわ。全速前進、行くわよ~~!」
   

本日も晴天なり?

2017年9月
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  • ザ・藤川家族カンパニー
    あなたのご遺言、代行いたします/ブラック婆さんの涙/漂流のうた

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    今日から「姐」と言われても/今日から「夫」と言われても

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  • 夜来香恋結店
  • 東京S黄尾探偵団 夏休みだヨ、全員集合!
    (コバルト文庫「書き下ろしアンソロジー① 龍と指輪と探偵団」に収録)
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  • 鳥籠の王女と教育係シリーズ(全12冊)
    婚約者からの贈りもの/魔王の花嫁/永遠の恋人/姫将軍の求婚者/さよなら魔法使い/嵐を呼ぶ王子/恵みの環の魔王/魔法使いの選択/〈国守り〉の娘/夢で逢えたら/魔王の遺産/恵みの環の花嫁
  • 今夜きみを奪いに参上!シリーズ(4冊)
    紅(あか)の宝玉/忘れられた楽園/翼のない王/千人王の恋人
  • ダナーク魔法村はしあわせ日和シリーズ
    都から来た警察署長/ひみつの魔女集会/ドラゴンが出たぞ!/いとしのマリエラ/ただしい幻獣の飼い方
  • ガイユの書シリーズ(全4冊)
    薔薇の灰に祈りを/薔薇の灰に恋(こ)がれ/薔薇の灰は雪に/薔薇の灰は闇に
  • 東京S黄尾探偵団シリーズ(全28冊)
    少女たちは十字架を背負う/ 青の封印/ Kの処刑場/五月、拉致られる/さらば愛しき女(ひと)よ/羊たちの祭壇/竹林(ちくりん)温泉殺人事件/時計台の首縊り(くびくくり)の鐘/魔都に鳴く龍/ 君にささげる花束/ Sの葬列/俺たちは天使じゃない/ローマの厄日(やくじつ)/宝島へようこそ/シンギング・バード/奥様は魔女!?(マンガ版)/保健室とマシンガンv/ 嵐の歌を聴け/その女、凶暴につき/八月の雨/Uの烙印/もっとも危険なゲーム/バカップルがいっぱい/雨の海に眠れ/S黄尾、解散!?/ 史上最大の作戦(前編・後編)/奥様は魔女!? リターンズ
  • 振り返れば先生(ヤツ)がいるシリーズ(全2冊)
    振り返れば先生がいる/振り返れば先生がいる2ndシーズン
  • 王子様にキスを
  • 人は影のみた夢シリーズ(全4冊)
    人は影のみた夢①~④
  • 華(はな)は藤夜叉シリーズ(全2冊)
    華は藤夜叉/PURE GOLD
  • アル-ナグクルーンの刻印シリーズ(5冊)
    クィンティーザの隻翼(かたはね)/エズモーゼの左手/星は踊る/ 月を狩る森/砕けた紋章
  • この雪に願えるならば
  • 雨の音洲(あめのおとしま)秘聞シリーズ(全3冊)
    闇燈籠(やみどうろう)心中 桜の章、吹雪の章/ 朧月鬼夜(おぼろづきよ)抄
  • 月虹(げっこう)のラーナ
  • 羽硝子(ハネガラス)の森
  • 睡蓮の記憶
  • カウス=ルー大陸史・空の牙シリーズ(全17冊)
    誘いの刻(とき)/太陽のエセラ/ 祭りの灯(ひ)/嵐が姫《幽幻(ゆうげん)篇》《風雷篇》/忘我の焔/今日命(きょうめい)の螺旋/かさねの鉢植/女神の輪郭(前編・後編)/影朧(かげろう)の庭/聖女の卵/夢眩(むげん)の鏡/華烙(からく)の群れ/蘭の血脈《天青(てんじょう)篇》《地猩(ちじょう)篇》《紫浄(しじょう)篇》

ビーズログ文庫既刊

  • 少年ユヅルの優雅で怠惰な王国
  • 神抱く凪の姫シリーズ(全3冊)
    キレ神様、お目覚めにございます/耐えてください、キレ神様/誓いの刻です、キレ神様
  • 姫さま、恋愛禁止です!シリーズ(全2冊)
    花婿はお馬の王子/旦那さまと呪いのウサ耳
  • 女神の娘の恋歌(こいうた)シリーズ(全3冊)
    暁は伯爵、黄昏は魔王/光の乙女、闇の聖女/一瞬の光、永遠の輝き

幻狼ファンタジアノベルス既刊

  • 半魂香―まどろみの巫女と〈守護者〉―〈上〉〈下〉