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キューピー3分クッキング

姫将軍の結婚

「駄目、吐きそう」
 青白い顔をしたオルフェリアが訴えた。テーブルの上に置いてあった盥をひったくると、その上に覆い被さる。
 苦しそうな息づかいが聞こえたが、それだけだったようだ。無理もない。オルフェリアは緊張で、数日前からろくにものを食べていないのだ。
 控えの間でオルフェリアに付き添っていたエルレインは、慰めるよりも叱咤する方がいいと、あえてきつい声を出した。
「しっかりしてちょうだいよ、リオ。あなた、これから婚儀なのよ」
「うっ」とのどがひしゃげるような音をオルフェリアが立てた。世にも情けない表情でエルレインを見る。
「わかってる。だけどレーン、責任が重すぎて」
 エリアルダでは、祭壇に赴く花嫁が転ぶか否かで吉凶を占う伝統があった。
 その昔、エルレインも王孫子の婚約者だった時代には、それゆえの歩き方稽古でさんざん泣かされたものだ。サルだのアヒルだの教育係に罵られつつ、幾度離宮の廊下を行き来したことだろう。
「もし、転んじゃったらどうしよう」
「転びません。そのためにあなた、さんざん稽古をしたじゃない」
「だけど、もしもの時はさ……」
「もしもの時なんて、ありません」
「でも、やっぱりこの結婚を快く思わない方が――いて、わたしの足を引っかけようとするかも」
「しませんったら」
 あくまで弱気なオルフェリアに、エルレインは呆れまじりになってしまった。
 根拠のない慰めなんてという表情をする親友に、指を立てながら自分がそう思う理由を説明する。
「まず第一に、エリアルダは大きな困難を乗り越えた直後でしょう? そんなときに、国の先行きを不安にするような嫌がらせをする必要がどこに?」
「いつでもどんな時代でも、協力より内紛を好む方はいると思う」
 うっ、正論とエルレインは思った。たとえ大混乱のなかでも、政敵を引きずり下ろすことに熱心になる利己的な者はたしかに存在する。
「それから、その二。王太子妃殿下のにらみが効いた状況で、そんな勇気の出せる方なんていません」
 オルフェリアの義母となるエヴィーダ王太子妃は、エリアルダ人にもっとも人気のある伝説の〈邪悪な〉賢妃、フラニエルの再来と言われている。
 敵に回せばこんなに怖ろしい女性もいないが、味方にすれば誰よりも心強い存在だ。
「――妃殿下は、やっぱり心の底ではわたしと殿下の結婚を望んでいないと思うんだけれど」
 〈邪悪な〉賢妃の再来であるエヴィーダは、オルフェリアを『高潔すぎる』と評価していた。毒舌を吐きまくり、必要とあらばしゃあしゃあと嘘をつくだろう前婚約者のエルレインの方を、より気に入っていたのは間違いない。
「あのねえ、リオ。そんなの昔の話でしょう?」
 エヴィーダはいったんオルフェリアを受け入れると決めてからは、切り替えが早かった。婚儀までにエリアルダ王孫子妃にふさわしい教養を、と教師をつけたのも彼女だし、歩き方指南の教師を見つけてきたのも彼女だ。
 友人の集うサロンや私的な晩餐会に招き、国内の有力者に引き合わせ、自分が後ろ盾だと披露し、余計な手出しを牽制したのも彼女である。
「うん。受け入れてくださろうとしてらっしゃるんだよね。期待に潰されそうだけれど」
「――」
 後ろ向き思考から逃れられないオルフェリアに、エルレインはため息をついた。
 面倒くさくなってきて、なぐさめるのをすっ飛ばして三つ目の理由を挙げる。
「最後に、あなたは躓いても転ばないわ。あれだけ稽古したんですもの」
 エルレインの指南をした教育係もオニだったが、オルフェリアのそれも悪魔のようだった。
 友はよく耐えたとエルレインは思う。
「……努力の結果が、三番目の理由なんだ」
 それを第一に挙げてくれなかったとひがまれ、エルレインはうんざり声になる。
「もう、リオったら!」
 その時ふいに扉が叩かれ、オルフェリアが飛び上がった。エルレインは時計を見遣る。
 式の始まる時間だ。
 踏み込みの間を二人分の足音が聞こえてくる。オルフェリアを迎えにきたアレクセルと『戦友』のものだ。
 オルフェリアが蝋のように白くなった。抱えた盥に屈み込む。
「さあ、わが花嫁よ。用意はいいかな?」 
 朗らかな声と共に、アレクセルが控えの間に現れた。両腕を振り上げて花嫁を抱きしめようとして、オルフェリアの様子に目を丸くする。
「どうしたのだ、食あたりか?」
「どちらかというと、式あたりですわね」
 緊張しているのだとエルレインが身振りで示すと、アレクセルはオルフェリアの傍らに膝をついた。
「大丈夫だ、わたしがついている。あなたの案じるようなことは、何も起こらないよ」
「殿下……」
 アレクセルは、無理に微笑もうとして、その笑みすらこわばらせる未来の妻の頬に触れた。
「わたしを信じなさい。あなたに害をなす輩がいたとして、決して手出しはさせぬ」
「はい」
 涙ぐんでうなずいたが、オルフェリアの顔色は変わらなかった。それどころか、次第に震えはじめて止められなくなる。
「ですが、わたし、無理かもしれません。やっぱり式はやめたほうが……」
「なにを言うのだ、オルフェ――」
「おまえは、それでも武人か!」
 ふいに太い声がオルフェリアを一喝した。はっと顔を上げたオルフェリアが呆然とする。
「イスヴァート……」
 イスヴァートはオルフェリアの剣の師だ。ついでに言えば、彼女の初恋の人でもある。
 とはいえ、今時分ここにいるはずがなかった。婚儀はエリアルダ王宮で執り行われ、故国の騎士団副長である彼は招待されていない。
「どうして、卿がここに?」
「わたしが『戦友』の役目を卿にお願いしたのだ」
 アレクセルが言った。
 エリアルダの婚儀の様式は、かつての略奪婚文化の名残をとどめている。控え室に花婿が迎えにきて、花嫁を祭壇まで連れてゆくのがそれだ。
 略奪婚の時代、花嫁は結婚を拒んで暴れた。その時花婿に協力して、花嫁を強引に祭壇まで引きずっていったのが『戦友』と呼ばれる友人である。
「ほんらい、わたしなどが引き受けられる役目ではないのだが」
 恐縮そうにイスヴァートが頭を下げてみせる。彼は、アレクセルが誰にこの役を頼みたかったのかを知っているのだ。
「いや、こちらこそ、失礼なお願いではなかったかと思っています」
 本命の都合がつかなかったから、イスヴァートに話がきた。そんなふうにも受け止められる。
「それでもご無理を申し上げたのは、あなたが卿の祝福を受けたいだろうと思ってのことなのだよ」
 アレクセルの言葉に、イスヴァートはどこか照れ臭そうに続けた。
「『戦友』というより、父親になって送り出すようだがな」
「卿――」
 言葉をうまく紡げなくなるオルフェリアに、イスヴァートは言った。
「ほら、シャンとせい! これしきのことで青ざめるなど、それでも〈姫将軍〉か!」
「はいっ」
 オルフェリアの背筋がぴんと伸びた。ある意味、条件反射だ。
〈姫将軍〉というのは、彼女が嫁ぐにあたりオーデット国王が贈った称号だった。友に箔をつけよと、父に命じたのはエルレインだ。
「名に恥じぬふるまいをせよ、オルフェリア。ゆくぞ」
「はいっ」
 オルフェリアが直立不動になった。これから臨むのは、婚儀ではなく戦かのようだ。
「っていうより、さっきまで瀕死だったのはどこの誰?」とエルレインはツッコミたかった。
 だがまあ、くよくよが断ち切れたのならよしとするべきだろう。
「では、我が花嫁。お手を」
 アレクセルの差し出した手のひらに、オルフェリアがはにかんで自分の手をゆだねる。
 エルレインは控えの間の扉を大きく開けた。まずイスヴァートを、それからアレクセルとオルフェリアを通す。
「エルレイン、オルフェリアが世話をかけたね」
 アレクセルに、エルレインは笑顔で答えた。
「いいえ。過去にされたことに比べたら、ゼンゼン」
「レーン!」
「いってらっしゃい、リオ。ほら、何か一言くらい言いなさいよ」
「うう。わたしだけ先にごめん、って、厭味とかじゃないから!」
 慌てる親友にエルレインは噴きだした。長い付き合いだ。そのくらいわかっている。
「お二人とも、おめでとう。どうか末長くお幸せにね」
「ありがとう」
「ありがとう、レーン。次はレーンだからね」
「さあ。晴れ舞台が待ってますわよ!」
 二人はエルレインに笑顔を向け、それから微笑みをかわした。
 ゆっくりと、アレクセルとオルフェリアが祭壇への道を進み始める。
 エルレインは二人を見送り、胸がいっぱいになる。今日この日にとうとう、オルフェリアの想いが叶うのだ。
「アレクセルさまに想いをよせて、二年? もうちょっとかしら」
 長かったような、短かったような。オルフェリア本人はどちらだろう。
 落ち着いたら、訊いてみようと思った。晴れてエリアルダ王孫子妃となった親友に。
「姫さま。姫さまも急いで聖堂に参りませんと」
 顔を出した侍女がせかした。付き添いをしていたエルレインも、婚儀には参列するのだ。
「いけない。行きましょうか」
 二人が聖堂に到着する前に、別の道で先回りをして着席しなければならないのだ。
 エルレインはドレスの裾をからげ、速足に廊下を歩き始める。
『次はレーン』
 急ぎながら、オルフェリアの言葉がふっと浮かんだ。痛みとも願いともつかぬ感情が、エルレインの中をよぎる。
 彼女の「夫」は、王宮の天主塔に眠っている――。
 いつか目覚めたら。いいえ、きっと目覚めるから。
 うつってしまったらしいオルフェリアの弱気を笑い飛ばし、エルレインは聖堂の脇扉に手をかける。
「長く待たせたりしたら、許しませんわよ。ゼルイークさま」
 愛しくつぶやいて、エルレインは貴賓席にそっと滑り込む。
 ほぼ同時に聖堂の正面扉が開き、花婿と花嫁がおごそかな一歩をそろって踏み出した。

本日も晴天なり?

2016年6月
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  • 神抱く凪の姫シリーズ(全3冊)
    キレ神様、お目覚めにございます/耐えてください、キレ神様/誓いの刻です、キレ神様
  • 姫さま、恋愛禁止です!シリーズ(全2冊)
    花婿はお馬の王子/旦那さまと呪いのウサ耳
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    暁は伯爵、黄昏は魔王/光の乙女、闇の聖女/一瞬の光、永遠の輝き

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  • 半魂香―まどろみの巫女と〈守護者〉―〈上〉〈下〉