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キューピー3分クッキング

緑のワルツ

「王妃さまはご欠席ですか」
 祝宴のざわめきの中、誰かのささやく声がゼルイークの耳に届いた。
「やはり、顔を合わせたくないのかと」
「無理もありますまい。わが子とはいえ、魔法将閣下は〈魔王の息子〉ですからなぁ」
「しいっ、聞こえますぞ」
 もう聞こえている、とゼルイークは思った。くだらない、つまらない、いつもの雑音だと心に蓋をする。
 側にいるネリーが、気遣うように様子をうかがっていた。だから、大丈夫だという表情を保つ。とっくに慣れた、傷つくわけがないというように。
 けれど、嘘なのは誰よりも一番自分がわかっていた。慣れたと思いたいだけだ。傷つくまいと心を鎧っているだけだ。
 こんな日なのに、と悲しみを覚えずにはいられない。
 ネイロープで敵国の南軍魔法将を破り、エリアルダを勝利に導いたのは、いったい誰なのだろう。
 今宵は、戦勝の祝賀会ではないのだろうか。
 いや、違うとゼルイークは思い直す。勝戦の将は、異父兄なのだ。ヴァージル王太子が全軍を指揮した。
 兄はいま、あまたの支持者に囲まれ、称えられている。人々の人気と信頼を得、やがて王となる日を望まれている。
 だから――これでいい。
 ヴァージルと目が合い、ゼルイークは手にしたグラスを掲げてみせた。心配させまいと、笑顔になる。
 そのかわり、身近にいるネリーには、八つ当たりぎみに言った。
「俺は、あとどれだけこの場にいなければならない?」
「ダンスが始まるまで、ですかね」
 なれっこのネリーは、ひょうひょうと返した。
「初めの音が鳴ったら、俺は消えるからな」
「いいえ、五曲目まではいるのがマナーです。本日の主役と踊りたい女性が、次々と訪れますから」
「ふん」
 王太子の心証をよくするためだと親に言われ、生贄の気分で申し込みに来る相手など願い下げだといいたい。
 が、それも魔法将の仕事の一部なのだろう。正しくは、ヴァージルの弟としての。
「だったら、六曲目がジャンと鳴ったら、俺はその瞬間に消える」
「ご自由にどうぞ。六曲目の不運なお相手は、わたしが代わりを務めておきますよ」
 ネリーがあっさり請け合う。彼はこういう時、決してゼルイークを非難しない。
 口にこそしないが、ゼルイークの気持ちを察しているのだ。
 俺には、けっして味方がいないわけじゃない。
 ネリーの態度に、ゼルイークは思う。兄やダナーク村の魔女たち、魔法使いたち。彼らは陰口とは無縁だ。魔王の息子、だからどうした? そういう姿勢でいてくれている。
 本当はネリーにも礼を言うべきなのだろう。ありがとうと言ってみようか。
 そんなことを考えていると、周囲がふとざわついて人の波が揺れた。
 壮年の男性とほっそりとした少女が、供を連れてヴァージルに挨拶をしに向かっている。
「なんと、めずらしい」
 聞こえよがしに誰かが言った。
「ダード伯とご令嬢ではありませんか」
「ダード伯……?」
 魔法使いではない貴族の名に疎いゼルイークには、聞き覚えがなかった。
「そうです。別名を、社交嫌いのペルティダ伯。代々引きこもりの家系だそうですが、今回はさすがに姿を見せないわけにはいかなかったのでしょうね」
 ペルティダ国は、かつてエリアルダが併合した帝国の名だ。そのさい、エリアルダ王室はペルティダの姫を、政略として妃の一人に迎え入れている。
 ペルティダ伯と呼ばれるなら、その姫君の血を引く家系なのだろう。
「ペルティダ人か」
 ふとゼルイークは、ネイロープの戦いの際に出会った少女を思い出した。
 ねじれた魔法で、はるか未来から飛ばされてきた黒髪の少女。彼女の面立ちにも、ペルティダ人特有のものがあった。
 ポチのやつ、いまごろは恋人といちゃついて過ごしているに違いない。
 そんなことを思うと、なんとなくむっとした。元の世界に戻してやったのは、自分だというのに。
「おっと、殿下」
 ネリーがゼルイークを肘で突いた。ヴァージルがダード伯令嬢に何ごとかを言い、ゼルイークの方を指し示したのだ。
 令嬢はこちらへ向かってきた。一人だ。
 割れた人波の間を、まっすぐに歩いてくる。
 もし、いまここで誰かが足を突き出したら、彼女はそいつの足をためらいもなく踏みにじるだろう。
 わけもなく、ゼルイークはそんなことを考えた。そのくらい、しっかりした足取りだった。
 なんだろう。
 少女が近づいてくるにつれ、心がモヤモヤし始めた。可憐な少女だ。たぶん、美しい。
 そして、自分の周りにいる気の強い魔女たちとは明らかに違うのに、どこか似ている。
 頬に血が上りそうなのに気づき、感情を抑え込む。自分のことなのに、わけがわからない。身体と心が、バラバラに動こうとしているようだ。
「はじめまして、魔法将閣下。わたくしはダード伯の娘、ダルシエラ。シーラと申します」
 優雅な挨拶をゼルイークは半ば呆然と受けていた。戦勝の祝いの言葉が、心地よい音楽のように耳をくすぐる。
「ネイロープでのご活躍、うかがいました。その時のお話を、ぜひ聞かせてくださいませ」
 いままでに、幾度となく聞いてきた社交辞令と同じセリフだ。なのにゼルイークは、初めて褒められた子どものように飛びついた。
「では、ダンスの時にでも」
 シーラが驚いたように目を瞠り、それから目元を和ませる。
「光栄ですわ。何曲目をおねがいできますかしら」
「初めの曲――いや、それはもう相手が」
 毎回どんな催しだろうと、遠縁の厭味な老貴婦人の相手をすると決まっている。
「そうですね、六曲目をお願いしたい」
 和んでいたシーラの表情が凍りつき、ゼルイークは自分が失敗したと悟った。
 遅まきながら、二曲目をと言わなかった自分を呪いたくなる。六などと遅い数字を言えば、それだけ相手を尊重していないことになってしまう。
 意味が違うと、弁解したくてできなかった。六というのは、ネリーとの会話の続きで出た言葉なのだ。義務でいる五曲目の後。
 さっさと帰ると言った発言をひるがえしての「六曲目」だと、ああ、いったいどう説明すればわかってもらえるのか。
 打つ手を思いつけずに立ち尽くしていると、シーラは冷たく微笑んだ。
「承知いたしましたわ。では後ほど、六番目の曲の時に」
 お辞儀をして下がってゆく後ろ姿を、一生の不覚の気持ちで見送る。
「お任せください」
 ネリーがすっと側を離れ、後を追った。弟も同然の彼のトンチキを、フォローしてくれるつもりなのだろう。
 頼む、ネリー。
 すがる思いで乳兄弟の兄にたくしながら、ゼルイークはポチの予言をふっと思い出した。
『あなたは恋に落ちます』
 それを聞いたとき、ゼルイークは怒りを覚えた。あり得ないと思うあまり、涙が出るほど笑ってやった。
 けれど。
『恋に落ちます』
 その言葉をいま、ゼルイークは噛みしめていた。知らず、シーラの緑のドレスと香水の香りを、この広い会場に探し求めながら。

  

本日も晴天なり?

2017年9月
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    あなたのご遺言、代行いたします/ブラック婆さんの涙/漂流のうた

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    (コバルト文庫「書き下ろしアンソロジー① 龍と指輪と探偵団」に収録)
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    振り返れば先生がいる/振り返れば先生がいる2ndシーズン
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  • 人は影のみた夢シリーズ(全4冊)
    人は影のみた夢①~④
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  • この雪に願えるならば
  • 雨の音洲(あめのおとしま)秘聞シリーズ(全3冊)
    闇燈籠(やみどうろう)心中 桜の章、吹雪の章/ 朧月鬼夜(おぼろづきよ)抄
  • 月虹(げっこう)のラーナ
  • 羽硝子(ハネガラス)の森
  • 睡蓮の記憶
  • カウス=ルー大陸史・空の牙シリーズ(全17冊)
    誘いの刻(とき)/太陽のエセラ/ 祭りの灯(ひ)/嵐が姫《幽幻(ゆうげん)篇》《風雷篇》/忘我の焔/今日命(きょうめい)の螺旋/かさねの鉢植/女神の輪郭(前編・後編)/影朧(かげろう)の庭/聖女の卵/夢眩(むげん)の鏡/華烙(からく)の群れ/蘭の血脈《天青(てんじょう)篇》《地猩(ちじょう)篇》《紫浄(しじょう)篇》

ビーズログ文庫既刊

  • 少年ユヅルの優雅で怠惰な王国
  • 神抱く凪の姫シリーズ(全3冊)
    キレ神様、お目覚めにございます/耐えてください、キレ神様/誓いの刻です、キレ神様
  • 姫さま、恋愛禁止です!シリーズ(全2冊)
    花婿はお馬の王子/旦那さまと呪いのウサ耳
  • 女神の娘の恋歌(こいうた)シリーズ(全3冊)
    暁は伯爵、黄昏は魔王/光の乙女、闇の聖女/一瞬の光、永遠の輝き

幻狼ファンタジアノベルス既刊

  • 半魂香―まどろみの巫女と〈守護者〉―〈上〉〈下〉