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キューピー3分クッキング

永遠と一日の恋人 3

  

「何をぼんやりしているのです、エルレイン」
 夫に声をかけられ、エルレインは室内を振り返った。
 彼女はダナーク城の居間の窓辺で、舞い散る粉雪を見ていた。
 この辺りは、王都よりも冬の訪れが早い。後いくらもしないうちに、村の家々の屋根も雪化粧をするだろう。
「昔を思い出しておりましたの。わたしたちの、二度目の式のことを」
 エルレインは微笑んで答え、夫の元へ行った。
 年代物になった長椅子で、ゼルイークが彼女を迎える。
「二度目の式か。わたしは、ずいぶん頭の煮えたことをしたね」
「ええ。そういう行動は、それ一度ではありませんでしたけれど」
 エルレインはにっこりと返して、きちんと結い上げた髪に手をやる。
 髪は雪のように白かった。かつて黒髪だったものとしては、灰色まじりにならず、見事な色をしている。
「おや。ご自分を棚に上げて、よく言うものだ」
 わざとらしく目を瞠っていせるゼルイークの髪の色は、若い頃のままだ。だが長さは、年齢にふさわしく短めにしている。
「ふふふ。それができずにどうします?」
 舌戦では、攻めと同じくらい守りも重要だ。とくに年季の入った相手となれば、ボケたふりや耳が遠くなったふりだって、ギミックとして必要になってくる。
 とはいえ、今宵の二人はそこまでするつもりはなかった。
 侍女がお茶を運んできたので、並べ終えて退室するのを黙って待つ。
 熱いくらいのお茶を、二人で静かにすすった。ミルクティーが、肌寒い夜にはぴったりだ。
「ようやく、ほっとしましたわ」
 エルレインはつぶやくように言って、カップの湯気を見つめて目を細めた。
「式のことを思い出したのも、そのせいなのでしょうね」
 今日、末の孫娘がこの城から嫁いだ。
相手は五十年前だったら、誰も名を知らなかったような新興貴族だ。「産業階級」あるいは「科学貴族」と呼ばれる、最近とみに力をつけてきた人々の一員である。
 孫娘の夫となった青年は、人柄も申し分なく、みなに祝福された門出だった。
 エルレインが寂しく思うのは、嫁ぎ先が遠方であることだった。工場町として発展するルテヴィルは北部、王都の東にある。
 式はルテヴィルで行われ、祖父母である二人もそれに列席した。その後、若者たちが羽目を外す祝宴は避け、魔法の環により一足早く城へ戻ってきたのだ。
 孫娘の両親、つまり二人の息子夫婦はルテヴィルに泊まったあと、王都に寄ってから帰城するという。

「今夜は、久しぶりに二人だけだ」
「ええ。だから、あの頃の記憶が蘇ったのかもしれません」
 結婚したのち、初めの数年間は夫婦水入らずだった。
 それから家族が増え、さらに孫たちが生まれ、一人、また一人と巣立っていった。
「いつのまにか、こんなところまで来たよ」
 カップを置いたゼルイークが言った。エルレインがドレスの膝においた手の甲に、そっと触れる。

「正直、ここまで来られるとは思っていなかった。あれから、三百二十五年――」
「あなたが、お生まれになった時代からですね。考えてみると、気が遠くなるような昔ですこと」
「妖怪のように聞こえるね、きっと。その時代の、魔法将だったわたしには、こんな生活が待っているとは想像もできなかった」
「ええ、そうでしょう。恋に落ちることすら、あの頃のあなたはご存じじゃなかった」
「まるで、ご自分が予言したような言い方だが、あなたはポチだっただけでしょう」
「ポチ。まあ懐かしい」
 エルレインは笑った。魔法で過去に飛ばされ、「俺」と自称していたゼルイークと会ったのだっけ。
「思えば、遠くへ着たものだよ」
 ゼルイークが感慨深げな眼差しになった。
 生を受けて三百二十五年余。
 ただびととなってからは、およそ五十年。
「ご自分が『じいさん』になるとは思っていませんでした?」
 エルレインはいたずらっぽく訊いた。〈細切れの生〉を生きていた頃のゼルイークは、幾人もの友人が老いてゆくのを眺めるだけだったのだ。
「まったく。『くそじじい』という悪態が、自分に向けられる日が来るとは……」
 それは数日前、ゼルイークがひ孫に言われた言葉だった。まだ幼いので、意味をわかっていて言ったのかはあやしいが、ゼルイークには衝撃だったようだ。
「因果応報、ですわよ」
「その言葉はそっくりお返ししよう。あなただってそのうち、あなたが娘時代にだれかに言ったように、『くそばばあ』と言われる日が来る」
「さあ、どうでしょう。わたしは『いいおばあちゃま』ですもの。そんな口をきく子がいるかしら」
「ああ、それなら悪態をつくと毒針入りの靴で足を踏まれると思っているのだろうね」
「わたし、そんなことしませんわよ。賢妃さまじゃあるまいし」
 エルレインのお仕置きと言えば、せいぜい石鹸水で口をすすいでやるくらいだ。
「でももう、今ではフラニエルさまのことを口にする者もおりませんわね……」
 邪悪な賢妃の伝説は、とうに砂に埋もれてしまっている。

「色々なことがあったからな」
 夫の言葉にエルレインはうなずいた。
「嬉しいことも、哀しいこともね」
 つらい別れも経験している。頑なに魔法を追い求めた挙げ句、忽然と姿を消した侍女。
 地図からその名を消した、祖国――。
 すでにこの世を去った友人もいる。先年のアレクセルの葬儀は、まるで旧時代を象徴するような荘厳なものだった。
「それでも、わたしたちはしあわせだったと思うだろう、エルレイン」
「ええ、もちろん」
 しあわせだった。そうなろうと歩いてきたと、自信を持って言える。
「いま振り返ると、さだめはわたしにも公平だったのかもしれない」
 ゼルイークが言い、エルレインは涙がにじみそうになるのをこらえた。
「あなたがそう思えるようになったのが、わたしは嬉しいですわ」
 前半生の穴埋めはされた。この五十年をそんなふうに捉えているなら、彼は間違いなくしあわせだったのだ。
「わたしの方は、公平どころか身に余るものをいただいたと思ってます」
 初めの窮屈な十七年など、補ってなおお釣りが来る人生だった。
 それも、ゼルイークやアレクセルと出会ったからこそだ。そして、彼女を支えてくれた人々と巡り会えたから。

「永遠の恋人……」
 エルレインがふとつぶやくと、ゼルイークが聞きとがめた。
「どうした?」
「いえ。ずっと以前に、お約束したでしょう? わたしたちは、生まれ変わっても、幾度だって出会い続けると」
 それを当時、「永遠の恋人のように」と表現したことがある。
「そうだね、それが?」
「いまでもそう望んだら、罰が当たるでしょうか。ふと、そう思って」
 望みを口にして、エルレインは何だか恥ずかしくなった。ゼルイークの目元が和む。
「来世でも、わたしと?」
「ええ。出会えたら素敵でしょう?」
「出会うだろう。違うなんて、考えられない」
 ゼルイークの手に力がこもった。エルレインは手首を返してその手を握り、思いに答える。
 ふっと居間に沈黙が下りる。
 やがて、ゼルイークが口を開いた。
「永遠の恋人を望んで罰が当たるならば、わたしはそれ以上の罰を受けるだろうね」
「どうしてです?」
「わたしのほうがもっと欲張りだからだよ。わたしは、いまのこの時を永遠以上に残したい。あなたとの出会いからの六十年を、完璧な環の中に入れて」
「永遠以上の永遠……?」
「魔法の時代には、それを〈永遠と一日〉と言ったのだよ」
「初めて聞きました」
「古い古い言い回しだからね」
 永遠と一日。エルレインは言葉を噛みしめた。美しい言葉だと思った。
 そしてどこか、哀しくもある。
 それは、魔法というものが遠くなった時代のせいだろうか。
 魔法は環で表される。そして環は永遠を表す。
 どちらも、すでにヒトの手を離れたものだと言えた。そしてこれからも、戻ってくることはない。
 けれど、二人は微笑みをかわした。
 永遠はまた、べつの形で在り続けるものでもある。そう思うからだ。
たとえば、心の中に。
 しあわせの記憶として――。
 
 ダナークの老公爵夫妻、ゼルイークとエルレインはそっと寄り添いあう。
 つないだ手も触れあった腕も、何もかもがなじんでいる。
 節くれ立った指も、目尻や口元の皺も愛おしい。
 なぜなら、同じ時を生きた証が二人にそれを刻んだのだから。
「エルレイン」
 エルレインに夫が呼びかける。万感の思いをこめて。
 彼女は笑みを浮かべてうなずき、温かな気持ちを胸に感じながら、愛しい名を呼びかけ返した。
「はい。ゼルイークさま」

 外では粉雪が、静かに静かに踊っていた……。

本日も晴天なり?

2016年6月
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