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キューピー3分クッキング

永遠と一日の恋人 1

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 かつて魔王となった公爵の妻であるエルレインは、その昔の自分の態度に「ごめんなさい」と思った。
「悪かったわ、リオ。許してちょうだい。わたし、あなたの式の時、『しっかりしてちょうだい』なんてよく言えたものよね。駄目。どうしても膝の笑いが止まらないの」
 花嫁衣装に身を包んだエルレインは、控え室で震えていた。
椅子に腰を下ろしているのだが、さっきから足だけが勝手に動いている。
「これじゃ、まるで貧乏ゆすりみたい。行儀も縁起も悪すぎる――」
「レーン。そういうこと口にするのが、いちばん縁起が悪いと思うんだけれど」
「だって。このままじゃ、わたし絶対に転ぶわ。誰が足を引っかけなくっても、自爆するに決まってるもの」
 エルレインは両手で顔を覆った。
 エリアルダの「花嫁が通路で転ぶか否かで吉凶を占う伝統」が恨めしい。

「転んだりしたら、一生自分を許せない。だって、ゼルイークさまがしあわせになれないって、烙印を押すようなものでしょう?」
「占い的にはね。でもさあ、いや、何でもない」
 オルフェリアはなだめようとして、途中で気を変えたようだった。彼女は十年前に、その試練を無事に乗り越えた。
 つまり成功させた者が、何を言っても無駄だと考えたのだろう。
 エルレインも、何とか自分を落ち着かせようとしていた。とりあえずポジティブになれるようなことを思い出してみる。
「そうよ、この日のために稽古だって積んだのよね。大昔の話で、ゼルイークさまのためにではないけれど」
 当時エルレインは、エリアルダ王太子アレクセルの婚約者だった。彼のもとに嫁ぐため、教育係として派遣されてきたのが、現在の夫であるゼルイークだ。
「それに、このお式は二度目だもの」
 エルレインとゼルイークは、自らの選んだ運命に立ち向かうと決めた時に結婚式を挙げた。真夜中に聖堂に行き、親しい友人だけに祝われたそれで、二人は夫婦になったのだ。
 今回のこれは、いわば公的なお披露目と一つの区切りを兼ねたものだった。
 魔法のくびきから逃れて目覚め、ただびととなったゼルイークと、彼を待ち続けたエルレインの新たな門出の祝福でもある。

「となると、もしかして今度のお式のほうが重要なの? 占い的にはやっぱりそうよね」
 エルレインはがっくりとうなだれた。
 もし転んだりしたら。そう思うと、怖くて仕方がない。
 ようやっと、エルレインとゼルイークは二人の生活を始められるのだ。
 同じ時代で生きる。しあわせになる。
 それなのに、将来に暗雲を感じさせるような式になったら、どうすればいいのだろう。
 またゼルイークに何か起こるのではないか。きっと、そんなふうに思ってしまう。
 ポジティブになるどころか、エルレインは負の螺旋階段をじめじめと下り始めた。
「それに、いまさらなことを訊いてもいい、リオ。わたしの歳でこのドレスって、どうなの?」
 エルレインの花嫁衣装は、当世風のものだった。すなわち、胸のすぐ下でスカートラインが切り替えられ、レースとフリルが床にあふれ出すほどどっさり広がっている。
 胸元に大平原が広がる体型としては、かわいらしく見えるので着こなせなくはない。
 しかし、急に気になりだしたのは年齢だ。エルレインはすでに二十代も後半。
 社会的な感覚では、かなりな晩婚となる。
「膚だって、若い子と同じとはいかないし。シミだって、皺だってあるもの」
 もっと言えば白髪もある。黒髪なので目立ち、先のことを考えると、どっと憂鬱に襲われる。
 それはともかく。この瞬間のエルレインは後悔に襲われていた。
 どうして、もっと大人っぽいデザインを選んでおかなかったのだろうか。
 これでは「すっごい若作り」と列席者に思われてしまう。
「しかもわたし、旦那さまより三つも年上なのに……」
「いや、そうは見えないから大丈夫だと思うけれど」
 オルフェリアはそう言ってくれたが、エルレインは盛大なため息でそれをかき消した。
 これが結婚憂鬱症というものなのだろうか。どうせなら、式当日ではなく、もっと前に来てくれていればよかったのにと思わずにはいられない。

「だけどさ、ちょっと始まるのが遅くない?」
 オルフェリアが時刻を気にした。
 たしかに、そろそろ花婿と戦友が花嫁を「略奪」しにきてもいい頃だ。
「アレクセルさまが、予定にない演出を始められた――とか」
 エルレインは思いつきを言ってみた。
 すると、妻であるオルフェリアが思いきり顔をしかめる。
「ありうる」
 アレクセルは楽しいことが好きで、退屈が嫌いだ。思いつきで何かをおっ始めることも、周囲が「またか」と諦める頻度であったりする。
「とくに、今回は殿下が心待ちにしてた式なわけだしさ」
 アレクセルは「戦友」の役をどうしてもやりたかったのだ。前回は諸般の事情でそれが叶わなかったため、今回、エルレインたちが辟易とするほどはりきっている。
「ねえ、リオ。アレクセルさまが予定にない演出をするとしたら、何だと思う?」
「――考えたくない」
 エルレインの質問に、親友は即答した。さすがに妻だけあって、夫がとんでもないことをしがちなのはわかっている。
「わたしとしては、レーンと公爵さまにはごくありきたりの式を挙げて欲しいんだよね。しきたりどおりに通路を進んで、誓いの言葉を言って、場所を変えて祝宴。それでよくない?」
「いいと思うわ、とっても」
 エルレインたちもそのつもりである。というか、予定ではそうなるように段取りを組んである。
 アレクセルが演出うんぬんというのは、単なるエルレインの思いつきだが、次第に不安になってきた。
 控え室を一歩出たら、度肝を抜かれるような何かが待っていたらどうしよう。
 たとえば――ドラゴンとか。
 アレクセルは、ドラゴンに執着があるタイプだ。ことあるごとに退治したがり、最近はこっそり異国のドラゴン討伐隊が隊員を募集していないかを調べているという噂もある。
 と、控え室の外が騒がしくなった。いよいよ花婿が到着し、伝統通り、侍女たちが形ばかりの押し問答をしているのだろう。
 エルレインはそれを聞くなり、今までの狼狽はどこへやら、しゃんと頭を上げた。
 いまだ、生来のへそ曲がりは健在なのだ。チキンなところを見せて、旦那さまにからかわれるつもりなんて、さらさらない。
 それどころか、相手が少しでもブルっていたら、なにか言ってやろうと待ちかまえた。
 友の態度の変わりように、オルフェリアがやれやれと首を振る。
 ところが。

 扉を開けて入ってきた人々を見てエルレインは目を丸くした。
 先頭が、正装したアレクセル。それに、控え室の侍女たち――ダナークの魔女やオーデットの王女時代の侍女――が、尾鰭のようについてくる。
「どうしたの、あなたたち。押し問答のあとは、べつにあとをついてくる必要はないのよ?」
 さらに言えば、青い顔をしてドレスを揉み絞るような演技もいらない。
 さらにさらに言えば、当の主役はどこだろうか。花婿がいなければ、花嫁を控え室から連れ出せないではないか。
「何かあったんですか、アレクセルさま」
 エルレインは嫌な予感に背中をチクチク刺されながら訊いた。
「まさか、ドラゴンがゼルイークさまをさらったとか、そういうことはおっしゃいませんよね?」
「ドラゴン?」
 エルレインの「思いつき」を知らないアレクセルはきょとんとしたが、それどころではないのだと言うように手を振った。
「いや、そうではないのだが、ちょっと予定外のことが起きてな――」
「ゼルイークさまが?」
 オルフェリアが訊ね、アレクセルがうなずいたのでエルレインは緊張した。
「もしや異界からの横槍ですか? 姉君とか魔王とか」
 ヴィエンカ、あるいはエルゼラスの妨害かと警戒する。どちらも力のある魔族で、ゼルイークとは因縁があった。前者はヒトとなった弟に興味を失い、後者は幽閉中なのだが、何らかの気まぐれを起こしたり、一時的に釈放されてひょっこり現れないとも限らない。
「もっと悪いぞ、エルレイン」
 アレクセルの沈鬱な表情にエルレインは身がまえた。
 魔王たちの妨害以上に最悪の事態とはなんだろうか。
 正直に言って、これより悪いことなんて想像できない。
 アレクセルは眉間に皺を寄せてため息をついた。あいつにはほとほと困った、とでも言うように。
「ゼルがトンズラした」
「なんですって?」
 エルレインは訊ね返した。
 トン――でもない言葉が聞こえたような気がする。
 そんなエルレインの反応に、もっともだとうなずいたアレクセルが繰り返した。
 大きな声で、はっきりと。
「ゼルが、逃げたのだ。『探さないでください』と言い残して」

本日も晴天なり?

2017年9月
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    振り返れば先生がいる/振り返れば先生がいる2ndシーズン
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  • 雨の音洲(あめのおとしま)秘聞シリーズ(全3冊)
    闇燈籠(やみどうろう)心中 桜の章、吹雪の章/ 朧月鬼夜(おぼろづきよ)抄
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  • カウス=ルー大陸史・空の牙シリーズ(全17冊)
    誘いの刻(とき)/太陽のエセラ/ 祭りの灯(ひ)/嵐が姫《幽幻(ゆうげん)篇》《風雷篇》/忘我の焔/今日命(きょうめい)の螺旋/かさねの鉢植/女神の輪郭(前編・後編)/影朧(かげろう)の庭/聖女の卵/夢眩(むげん)の鏡/華烙(からく)の群れ/蘭の血脈《天青(てんじょう)篇》《地猩(ちじょう)篇》《紫浄(しじょう)篇》

ビーズログ文庫既刊

  • 少年ユヅルの優雅で怠惰な王国
  • 神抱く凪の姫シリーズ(全3冊)
    キレ神様、お目覚めにございます/耐えてください、キレ神様/誓いの刻です、キレ神様
  • 姫さま、恋愛禁止です!シリーズ(全2冊)
    花婿はお馬の王子/旦那さまと呪いのウサ耳
  • 女神の娘の恋歌(こいうた)シリーズ(全3冊)
    暁は伯爵、黄昏は魔王/光の乙女、闇の聖女/一瞬の光、永遠の輝き

幻狼ファンタジアノベルス既刊

  • 半魂香―まどろみの巫女と〈守護者〉―〈上〉〈下〉